世界のチーズ(日本)

幻のチーズ - 日本チーズ

世界の数あるチーズの中には、時に「幻のチーズ」と呼ばれるものがあります。

何をもって幻とするのか、その定義は定かではないものの、伝統的であり、地域性が強く希少性が非常に高いものがそう呼ばれています。イタリアの「カステルマーニョ」や「ストーリコ・リベレ」、スペインの「カブラレス」などが幻のチーズとしては有名どころ。

チーズ輸入大国である日本は、世界の輸出先市場としての存在感が大きく、チーズ生産という意味では新興国。とはいえ、近年、日本のチーズ作り、アルチザン系チーズの発達振りは世界が注目するようになってきています。そんな日本で、ついに「幻のチーズ!」と呼びたくなるようなチーズとの出会いがありました!チーズ名は「熟成由布」。何と36ヶ月強熟成!日本産のチーズで3年以上熟成しているチーズを個人的には知らず(私が知らないだけ??知っている方いらっしゃったらぜひ、教えてください!)、ヨーロッパでも3年熟成モノとなると、世界に向けて絶大なるブランド力を持つ「パルミジャーノ・レッジャーノ」、「コンテ」、「ゴーダ」といった大御所たち、そして幻のチーズである前述の「ストーリコ・リベレ」。

3年強熟成のハードチーズ(由布院チーズ工房にて)

「熟成由布」の生みの親は、九州でのチーズ生産のパイオニアであり、九州のチーズ生産者としてはレジェンドともいえる、大分、由布院チーズ工房の浦田健治郎さん。通称「うらけん」さんとして有名なお方。身体の調子と年齢的なこともあり、チーズ生産者としては引退を決心された数年前、ご自身が持つチーズ生産技術、経験、知識の集大成として作ってみたチーズが、超長期熟成にも耐えるものに仕上がったとのこと。まさに、チーズの浪漫。すでに生産者としては引退することを決心をされていたため、当初はこのチーズを販売する意思はなく、製造日報もメモ書き程度。これまでの3年に渡る熟成も、ご本人曰く「もはや適当・・・」だったとのこと。いやいや、この「適当」にきっと、秘密があるはずなのですが!

ご縁があり、2026年10月に工房訪問をさせていただいた際に、こっそりと「熟成由布」を出してくださったのですが、素晴らしいチーズでした!端くれ的に、一応チーズの熟成なるものに関わったことがある身として言えるのは、まず、外皮が美しい!外皮ウォッシュと熟成環境微生物、そしてチーズそのものの相互作用で形成された外皮。もしかしたら、途中で真空していたかな??と思わせるレベルの水分保持力。僅か、2.5kgサイズ(長期的な水分保持は難しいはず!)なのにボディはしっとりとしています。その技量に脱帽。3年熟成なのに、まだまだミルク感を感じる甘いうま味と肉質的うま味の重層。ボディ内部や外皮の割れも皆無。脂肪酸化の雑味はなく、ちょうど心地良い程度の、ほのかな優しい苦味は、甘み、旨みとのバランスが完璧で、味わいの良いアクセントになっています。そして、上質なパルメザンに感じる、あの心地良いパイナップルのようなフルーティーなニュアンス!いただいた瞬間、イタリアの幻のチーズ「ストーリコ・リベレ」の10年熟成モノを彷彿とさせる味わいでした。だから、「幻のチーズ」と呼びたくなった!??のかも・・・

数ヶ月熟成から10年熟成ものまである、Storico Ribelle (2023年 Bra Cheese にて)

数ヶ月熟成(左)と9年熟成(右) Storico Ribelle - ストーリコ・リベレ

「ストーリコ・リベレ」は、10年程熟成されることもあること自体が、その希少性を高め、「幻のチーズ」とされる所以となっています。チーズを状態良く、長期熟成させるには、技量や知識が求められるだけでなく、資金力も必要であり、条件が揃わないとなかなかできないことです。

今回、そんなチーズが日本、(しかも九州で!)生産されていたことを知り、とても嬉しくなりました。
そして、引退する決意をしたはずの、うらけんさんですが、なんと若手のチーズ作り手さん(知る人ぞ知る、大倉典之さん)が、千葉から移住しこの工房を引き継ぎたい!と手を挙げられ、不調をきたしていたご本人の身体も治療とリハビリで、回復。チーズ製造からの引退は先延ばしとなり、製造現役復帰。元気にチーズを製造していらっしゃいます。良きチーズには必ずストーリーがあるとはよく言ったものです。

3年熟成モノ、外皮はかなりハードでカッティングは力仕事!外皮の層は、まさにチーズの年輪!
大分市内で開催した「イギリスチーズテイスティング会」に「熟成由布」ご持参で飛び入り参加くださった大倉さん。
イベントを盛り上げてくださいました。お陰で、クロスバウンドチェダーについても説明しやすかったです。

「熟成由布」は2026年10月現在、まだ、数玉、由布院チーズ工房の熟成庫で眠っています。工房にお問い合わせいただければ、小売も可とのこと!在庫がなくなれば、「36ヶ月熟成由布」が再び市場に出てくるのは、どんなに早くても3年後(?)。チーズに浪漫を求める愛好家はぜひ、今のうちにお試しを!うらけんさん曰く、どうやって作ったのかも、熟成工程の記憶もあやふやなので、また、これを再現できるのかは謎とのこと。だからこそ、「幻のチーズ」であり、アルチザンチーズの浪漫。今、数玉だけ存在するものも、個体ごとに外観が微妙に違えば、味わいもそれぞれに違った個性を持つことでしょう。究極のアルチザンチーズとの出会いは一期一会であり、それがチーズの持つ魅力の一つ。まずはかち割りにして、一粒、一粒噛み締めながら、3年という月日が織り成す、ミルクの味わいの旅を楽しみつつ、自身の人生の3年を振り返るもよし、ワイン、焼酎、日本酒、などなどのアテにも!
由布院チーズ工房で、現在、常にお取り扱いのある、「由布ヤング」はその名の響きの通り、若いバージョン(3ヶ月強熟成)のセミハードチーズですが、原料乳はガンジー乳(熟成由布はホルスタイン)。単純に若いバージョンではなく、牛種の違いもあり、少し違ったチーズとなっています。今後、工房では、ガンジー牛の乳質を活かしたチーズ作りもしていきたいとのこと。ガンジー牛は、日本では稀。これからがとても楽しみですね!

Next
Next

Hot Cross Buns or Tea Cake?